Contents menu
本日からはいよいよ最終章。
本日からいよいよ本格的にマイクセッティングについてみていきたいと思います。
マイクセッティングというと、偉く難しそうに聞こえますが、要するにマイクを置く場所です。
非常に簡単。
音源がある。
マイクを置く。
基本的にはこの二者の関係性のみになります。
応用編を考えれば環境、残響、音のスピード、湿度、気温などの要因によって位置が変わります。
30日チャレンジではこの応用編の考え方も少しだけ触れながらマイク位置を伝授していきます!
まずはマイクセッティングとは何か?
そして、いい音を創るためにどれだけ大切な要素なのか?
基礎的な考え方をシェアしておきましょう。
イコライザーやリバーブ?それ不要です

さて、これまでイコライザーの使い方について学んできましたが、プラグイン(イコライザーやリバーブなど)というのは、録音した音に含まれている「要素」をより美しくする目的で使用します。
マイク位置による要素 | 難易度 | |
イコライザー | 周波数の隙間を考察 | 中 |
リバーブ | 箱(現場)の大きさ湿度による速度 | 高 |
ディレイ | 箱(現場)の跳ね返り、マイク同士の距離 | 低 |
と、ざっくりこのように考えることができます。
すべてのプラグイン要素は本来マイクセッティングで演出可能になってきますし、後述しますオーケストラの指揮者はプラグインを使いません。
スタジオワークでプラグインを使う理由
さて、スタジオワークでは後から編集でイコライザーやリバーブ、ディレイなどを駆使して編集していくわけですが、これらは当然生の要素がないために、シュミレーションで付加することになります。
つまり生の要素を足すにこしたことはないけど、残響が3秒のコンサートホールでは収録できないからリバーブをシュミレーションする。
という感覚です。
筆者が昔聞いた話ですが、アナログ時代はスタジオワークでも、生の質感にこだわるアーティストやエンジニアは例えばスネアの音を収録するのに銭湯まで機材を持っていってサンプリングする。。。
なんてことをしていたそうです。
80年代の終わり頃から90年代にはじめころにはそういったドラムサウンドが流行っていた頃でした。
例えばTears For Fearsなんかは、このあたりの時代を象徴するサウンドと言えるのではないでしょうか。
プラグインは使うものであり、使い方覚えないと音響はマスターできない。
というのは間違った考え方だと筆者は思っています。
プラグインはできれば使わないことをベースに考えなければいけません。
プラグインを使わなければいけない音源というのは、プラグインの数だけ、使った割合だけその録音は失敗だったと考えています。
これはこれまでも例に出してきた料理で例えると、やはり素材の質が悪ければ悪いほど味付けをしっかりしなければならなくなるというのと同じです。
音の性質を把握

というわけでプラグインはできるだけ使わずにマイクセッティングを丁寧にするべきである。。。というのが当講座の考え方。
もちろん、「そんないつもいつも最高の食材が手に入るわけじゃない、どんな食材でも一流の料理に仕上げるのがプロだ!味付けの技術こそが音響だ!」という考え方もありだと思いますし、筆者は一切否定する気はありません。
しかし、そういった考えの方もこれから30日目に向けて伝授するマイクセッティングの知識は決して無駄にはならないかと思いますし、味付けの手間を少しでも省略することにつながると思うで是非最後まで読んでみてくださいね。
音は、1秒間に約340m進む・・・
これは有名なお話でご存知の方も多いかと思います。
しかし、音は波形ですので、環境によってその速度は大きく変化するわけです。
例えば湿度が高いと音の速度は遅くなりますし、気温によっても大きく変化します。
1秒間に約340mということですが、これ、結構遅いですよね。
そうなんです。
結構遅いんです。
小学校の頃徒競走でピストルの音が遅れて聞こえてくるのは音の速さが結構遅いから。
ディレイなどを天然で構築する場合はこの速度をつかってはじきの公式でマイクの距離を割り出します。
詳しくはディレイ作成の講座でお届けしますね。
気温と湿度で大きく左右される
特に湿度。
これは音響環境にとっては最も天敵といえます。
少なくとも湿地帯である日本では西洋楽器の収録は基本的にできないと思っておいた方がいいと思われます。。。というくらい湿度は大変なのです。
楽器が鳴らなくなるのは当然ですが、音質に関しても張りがなくなり、艶もザラザラ感もなくなります。
ただし和楽器を収録する場合はある程度、60%〜70%程度の湿度があった方がいい編成もあります。
この辺りは今後和楽器収録のレクチャー機会がありましたら詳しくみていきたいと思います。
注意
乾燥すればするほどいいのか?と言われるとそれは即答はできないのですが、ナレーションや歌を録音するときに喉を気にして加湿器をかけたり、部屋の湿度をあげておく・・・
なんてことはダメ絶対。
せっかくいい機材を揃えてもその性能を100%発揮しきれません。
環境によって変わる
部屋の環境、壁が木材なのか?
鉄なのか?
それとも吸音材なのか?
それともコンクリートなのか?
部屋に置いてあるモノ、、、例えばデスクなどの素材は何か?
これも音を大きく左右させる要因になります。
いい音を追求するためには収録の際に周囲の環境をチェックして、どんな材質のものがどんな跳ね返り方をするのか?
跳ね返りの速度は?
などなど考慮してセッティングしなければいけません。
ただし、ここは経験によるところが大きいかと思うので習うより慣れろの精神で経験を蓄積していきましょう。
特に都市や人工物で囲まれた環境でのロケ収録などでは、素早く周囲の状況を把握してマイク選び、セッティングをしていくスキルが求められます。
この辺りは詳しく知りたい方は体積弾性率などで検索してみてください。
よく考えられたオーケストラの配置

みなさんはオーケストラのコンサートに行ったことがありますか?
実はオーケストラこそ、天然の音響編集の完成形なのです。
ここにいろんな概念が詰まっています。
トランペット&トロンボーンは最後列
金属製で且つ、楽器自体の菅の長さが短く、客席に向かってダイレクトに音を届けるトランペットとトロンボーンは最後列に位置しています。
これらの直管型の楽器はピンポイントに狙った場所に音を届ける指向性を持っているわけです。
ホルンやチューバは反響前提
一方でホルンやチューバなどの菅が長く、ベルも反響版目掛けて設計されている楽器は音の速度も遅く、反響させて楽器本来の音を作り上げるタイプの楽器はオーケストラ中間部分に位置しています。
弦楽器は上に向かう
バイオリンやビオラなどの弦楽器は基本的に上に向かいます。
チェロやコントラバスは縦に音が流れますが、チェロ奏者などはアンサンブルやオーケストラなど編成や状況に応じて楽器の角度を変えているわけです。
舞台上での音響
コントラバスやチェロが低域を舞台の底支えとして機能し、その上にバイオリンとビオラ群などで軸となる音ばを作り上げる。
そこにトランペットやトロンボーンを注入し混ぜる。
そして反響前提の楽器群で全体を包み込み、コーティングする。
このミックス作業を指揮者は指揮台でやっているわけなんですね。
つまり、ミキシングエンジニアというのは指揮者そのものなわけです。
指揮者はプラグインを使わない
当然ですが、オーケストラの指揮者は客席へ音を届ける前にプラグインなどは使っていません。
プラグインなどは使わずに現場ごとに微妙に音響を調整しながら本番を迎えます。
Aというコンサートホールではこのバランスだったけど、Bというコンサートホールではどうも混ざりが悪い、なのでこの部分のトロンボーンは音の速度を少し落としてください。
本番中でも非常に細かい指示を指揮棒で出します。
この部分の〇〇のパートは少しだけベルの位置を上げたい!というときに、大きめに棒を振り視線を集めます。
そこで音響が変わるわけです。
リハーサルで指示して細かく音響を作り上げ、本番中でも微調整しています。
録音は本来これくらいの緊張感を持って挑むと良い音響が作れるのではないでしょうか。
「指揮者とか俺でもできるんじゃね?!」と思われがちですが・・・ここまで読んできてくださった方にしか伝わらない指揮者の大切な役目の一つが音響と言えます。
指揮者によってオケの鳴り方が違うのは、もちろん芸術的な表現の差も大きいですが、このような細かい音響技術の積み重ねも大きな要因となっています。
まとめ
- プラグインは使わずにマイクセッティングでイコライザー、リバーブ、ディレイは表現できる。
- できればマイクセッティングだけで表現できればベスト。
- プラグインは補助的に使う。
出来ればオーケストラを生で一度聞きに行ってみてください。
その際もできるだけ同じ編成で、同じホールで一番高い席と一番安い席を聞き比べたりしてみましょう。
そしてできればヨーロッパのオーケストラを現地で聞いてみてください。
仮に航空券が10万円かかったとしても、ヨーロッパのオーケストラは日本で聞くチケットの平均して10分の1ほどのお値段で聞くことができます。
しかも演奏者も旅のストレスを抱えていないことに加えて、楽器の鳴り方が全く別次元。
価格は10分の1、性能は100倍!?とヨーロッパまでわざわざ聞きに行くことは実はかなりコスパが良いんです!
短期集中で良い耳を育てるために使う投資としては日本で1万円のコンサートに10回行くよりは、ヨーロッパで10ユーロのコンサート10回行った方が耳を鍛えるには遥かに良い投資になります。
地域のイベントの吹奏楽のコンサートなどは無料で参加できるものがありますのでそちらも良い経験値が得られるかもしれません。
その際、どの楽器がどんな方向で、どんな速度で、どんな混ざり方をしているのか?
などに注目して聞いてみるとおもしろいかもしれません。
というわけでオーケストラには音響の概念がたくさん詰まっていますが、そちらはマスター講座(まだ未定)でやるとして、30日講座では、それぞれのシーンに合わせてマイクセッティングの事例を紹介していきます。
次回からは具体的な方法を見ていきましょう。
