【金田式DCマイク】 ショップス MK2, DPA2006カプセルで実験レポート:マイクに対する考え方
この記事の目次
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金田明彦氏の金田式電流伝送DC録音でテストした収録の模様を3つの現場からご紹介。
当サイトの金田式DC録音は金田明彦氏が直々に制作したものを使用。
金田式電流伝送DC録音専門レーベルで、金田明彦氏の公認の後継者:五島昭彦氏の録音と企画をまとめています。
簡易紹介:こうたろう
1986年生まれ
音大卒業後日本、スウェーデン、ドイツにて音楽活動
その後金田式DC録音のスタジオに弟子入り
写真・映像スタジオで音響担当を経験し、写真を学ぶ
現在はヒーリングサウンド専門のピアニスト、またスタジオでは音響エンジニア、フォトグラファーなどマルチメディアクリエーターとして活動中
当記事ではプロのピアニスト、音響エンジニアとしての知識とスキルをシェアしていきます
チェックポイント
マイクロフォンカプセルはSCHOEPS MK2(無指向性)を中心に進めていきます。
現在このMK2カプセルは単体だとサウンドハウスさんでは見つからず、システム5さんでお取り寄せとなっています。
現状だとMK5が指向性と無指向性を切り替えられるようになっており、大変魅力的。
SCHOEPS ( ショップス ) / Stereo-Set MK 5 をサウンドハウスで見てみる単一指向性しか使わないのであればMK4になります。
SCHOEPS ( ショップス ) / Stereo Set MK 4 をサウンドハウスで見てみるMK2はもちろんなんですが、MK4の弦楽器の引っ掛かる感触っていうのはもう他のマイクカプセルでは基本的にも応用的にもありえないと思います。
個人的には弦楽器録音なら間違いなくショップス、そして現場状況によって変わりますが、指向性のMK4はかなりおすすめです。
同時にDPAの中でもカプセル交換ができるタイプであるDPA2006のカプセル。
こちらも無指向性マイクですが、同時録音しているトラックが複数あります。
DPA ( ディーピーエー ) / ST2006A ステレオペア をサウンドハウスでみてみる全体のクオリティーは4006には及ばないところはありますが、音の特徴はしっかりと棲み分けられており、決してただ安いだけではない素晴らしいマイクです。
同価格帯で比較対象となりやすいのがSENNHEISERのMKH8020。
8020は素直さの中にある確かなジャーマン感が楽しめます。
詳細はこちらの記事でチェックしてください。
【このマイク、凄いです】SENNHEISER MKH8040, MKH8020を徹底分析
金田式DC録音の音
- 録音は金田明彦氏公認の金田式DC録音後継者:五島昭彦氏
- 演奏は当サイト管理人:こうたろう
- 掲載音源はサウンドクラウドは48khz、他はmp3に圧縮されています
- すべての音源はEQ等の処理は行わず、ノーマライズ処理のみとなっています
津山市エスパスホール
テスト環境としては非常にシンプル。
津山エスパスホール、グランドピアノ、DCマイクロフォン、私。
津山市のピアノ工房アムズ、故:松岡一夫氏の調律で行われたテストでした。
このチームでは2013年に象牙のSteinway B型を使って、noumenonを制作しています。
松岡一夫氏は若くして亡くなってしまいましたが、こうやって高い録音レベルで彼のスキルを未来に残せることを誇りに思います。
noumenonは五島昭彦氏の録音作品リストにて視聴できます。
松岡一夫氏の独特な調律も合わさってピアノ録音としては凄まじいレベルに達しているといえます。
現場の様子
Steinway Dを使ったエスパスホールでのテストはホールを貸切でセッティング。
こんな感じで天釣り用の機材を下に降ろして金田式DCマイクをセットしていきます。
音源試聴
プログレ全盛期世代には懐かしいキングクリムゾンのムーンチャイルド。
テーマ部分は著作権上アップロードできませんので、ピアノアレンジインプロソロ部分の抜粋ということでご試聴ください。
サウンドクラウドのものは48khzとなっています。
ドローンの空撮映像のBGM用に作曲した筆者のオリジナル。
MP3に圧縮されていますが、金田式ならではの音以外の概念も録音するといったニュアンスは十分に伝わるのではないでしょうか。
こちらが今回のテストで使用したショップスMK2カプセルの金田式DCマイク。
調律師の松岡さんとは飲み仲間でこの日もステージで五島さんがマイクセッティングしている間今晩のお酒についてのトークで盛り上がっていました。
神戸市灘区民ホールでのテスト
灘区民ホール津山エスパスホールから数日後に今度は神戸市のホールを貸切で収録。
一度ホールのPAルームを経由した100m以上の電流伝送実験です。
日本製KAWAIのフルコンサートグランドピアノです。
音源試聴
まずはピアノトリオ用に作曲した『ゴブリンの誘惑』。
筆者のピアノ作品としての処女作です。
ちなみにピアノトリオ版はこんな感じ!
次にとあるドキュメンタリー映像作品のためのオリジナルのBGM、映像的短編集-2。
現場の様子とマイクの位置
ホールの貸切って気持ちいいですよね。
釣りマイクの位置に関しても細かく検証できました。
デジタル記録部分はSound Devices 702T。
現在は廃盤となっているSound Devices 702Tはマイクアンプも非常に優秀なレコーダーですが、今回は記録用のみ使用です。
モニターヘッドホンはもちろん、ゼンハイザーのHD25。
本当にシンプルなセッティング。
SENNHEISER ( ゼンハイザー ) / HD25 密閉型モニターヘッドホン をサウンドハウスで見てみるワンポイント録音のため、接続は極めてシンプルです。
駆動はすべてバッテリー。
この日のテストは収録場所が近く、いったりきたりしながらのテスト。
コンサートホールの場合、通常かなり高い位置からセットされることが多いですが、実は最高のポイントはもっと低い位置だったりします。
もちろんそれはお客さんが入った時の見栄えが優先されるため、高い位置になっているのですが、貸切で収録する際は実は低い位置から探って行くという手法の方が早くポイントが見つかると思います。
神戸市ジャズライブハウス:ボーンフリーでのテスト
こちらは調律師の鈴木優子氏とのチームで検証。
筆者は鈴木優子氏とアルバム制作はしたことはありませんでしたが、ピアニスト時代関西でのライブはほぼすべて鈴木優子氏の調律で行っていました。
特に1907年製のプレイエルでコンサートしたときには確か4時間ほど微調整に付き合ってもらいながら、調律していただき、大変お世話になった調律師です。
今回の音源は少ないですが、YAMAHA C3を使用しています。
ジャズライブハウスですので、ホールに比べると非常にデッドな環境。
音源試聴
現場の様子
この日は全く同じ位置でDPA2006と無指向性素子のWM-61Aをセットしてのテスト。
写真には写っていませんが、別の位置でDPA4006もセットしています。
参考までに筆者の手持ちセットだったZOOM F4とKM184の組み合わせも音源がありますので、記録として掲載しておきます。
KM184に関しては、オンマイク寄りで収録するというイメージでしたが、この日は五島昭彦氏のアドバイスに従ってオフマイクで収録しています。
写真右上のマイクがKM184。
184に関してはピアノ収録でいろんな位置関係のサンプルを掲載した記事があるのでそちらをご覧ください。
【NEUMANN KM 184】各マイク位置でのピアノ音源テストや比較なども!
ピアノ工房アムズでのテスト録音
ピアノ工房アムズでは冒頭のエスパスホールでもお世話になった調律師の松岡一夫氏全面強力で行われました。
現場の様子
この日は金田式DCマイクでアナログテープ録音もテストしていました。
掲載音源は少なめですが、現場での収録の様子を収めた映像があるので掲載します。
筆者は五島昭彦氏とアムズに何度も通い、松岡一夫氏と交流を深めてきましたが、レコーディングでもお仕事でも、どんな時でも必ず打ち上げがあり、夜は宴会に発展します。
時にはアムズの森でBBQ、鉄板焼き、などなど。
この日も調律が終わると、松岡氏は街に買い出しにGOしていますので映像には映っていません。
アムズのピアノショールームはまた特別な響きの場所で、ピアノの管理のために温度や湿度などは厳格に管理されています。
映像はFujifilm X-T2でプラグインパワーマイクインにWM-62Aという61とはまた違ったニュアンスの素子を差し込んでいます。
ただし、映像制作の場合はカメラのマイクインに差し込んだりしないように注意してください。
詳しくはこちらの記事にて!
これから映像制作を始める方や音にお悩みの映像関係の方は是非チェックしてくださいね!
もう一度言うよ!何度でも言うよ!カメラにマイクを挿さないで!
音源試聴
マイクに対する考え方
音を聴くというのは同時に観ることでもあると常々感じます。
人間は音を聴いて、そしてちゃんと見てる。
試しに精度の高い耳栓をして車を運転すると視野を狭くするよりもはるかに危険に感じることと思います。
これは視力に関しては目の前のものを認識するけれど、聴力に関しては脳に到達したときに映像や絵を脳が再構築しているようなそんなニュアンスがあるのが伝わるでしょうか。
写真ではよくシークエンスを撮る、画角じゃなくて、状況を撮るといいます。
そこにストーリーはもちろん発生しますし、前後のストーリーは収めることができますが、やっぱりフレームという枠でリミットがあることは事実。
もちろんそのリミットがあるからこその世界観はありますが、音に関してはもっと違う見方をすることができます。
金田式DCマイクの場合は、その状況の場の空気感、さらには空気感という言葉では表せない人間の感情が入り組んだ状況を一緒に録音しているという表現が適切で、他に言語化する良い言葉が見つからないというのが正直なところ。
そこにいる人たちの感情、何を想い、何を感じているのか。
実際にこのテスト自体は2017年頃に実施され、5年程度の時を経て今リライトしていますが、他の録音とは違って、金田式DCマイクの録音音源はその時に感じていたことや、考えていたこと、筆者(演奏者自身)の思考回路などが鮮明に蘇り、明らかに音だけではない何かがそこに存在している様子が伺えます。
マイクロフォンの世界はマイクロフォンを通して思考・感情・音・すべてがそこに入っていく。
ここが最も重要なんじゃないでしょうか。
ぶっちゃけEQとか、ノイズとか、リバーブがどうのこうのとか、そういうなんか細かいことってどーでもいい。
声や音に感情が乗る、そしてその感情ごとマイクを揺らしているかどうか?
それだけなんじゃないか?
金田式DCマイクはやっぱり、ただそこに存在しているだけ、そしてシンプルに感情とともに共鳴してくれる。
それはゲッペルスがノイマンやゼンハイザーと共にマイクロフォンを進化させた時に考えていたある意味すごく純粋な強い想いと近い感覚なんじゃないか?
そう感じるわけです。
21世紀に入って世界や社会からいろんな意味でノイズを消すことに執念を燃やす傾向が人類全体に感じます。
広い意味でノイズを消していき、行き着く先の最後に残った波形にはもう感情なんて残ってないという感覚。
そういう録音はマイクロフォンが誕生した歴史を考えても本末転倒になってしまうんじゃないか?と感じるわけです。
そしてそういう録音なら超オンマイクで一音一音丁寧にサンプリングされたサンプリング音源の方がいいです。
私は本気でそう思ってます。
でもやっぱりマイクロフォンを使って、人が演奏し、人が聴き、人が録る。
そこはノイズが消されたシステマチックな世界からは決して見えないアートの世界なんです。
アーティストはもっとありのままでいい。
ノイズだらけでいい。
壊れていたっていい。
ピアニストやミュージシャンが『演奏終わってからの打ち上げの酒』を考えながら演奏したものもいい。
ボーカリストが歌ってる最中に悲しくなって下向いちゃったっていいじゃない。
金田式DCマイクを通して音を聴いていると、まるで金田明彦氏がそんな哲学を語りかけてくれるような気がします。
そこに良い音とか、悪い音とか、抜けが良いとか悪いとか、そういう次元では語られることのない哲学があって、人間の純粋な面、汚い面、いやらしい面、すべてが金田式DCマイクと共鳴して乗る。
こんな理想的な録音、マイクロフォンは他にないなと思うわけです。
マイクロフォンとは、音楽とは、音を録るとはなにか?そんなテストになったのではないでしょうか。
収録から約5年して改めて感じた想いを綴ってみました。