【はじめてのPIC】PICについての超入門ガイド

オーディオデバイスのレジスター制御は、高品質な音響システムや電子機器の開発において不可欠な要素です。

今回は当スタジオの音響顧問である五島昭彦氏から、LSIのコマンド設定用のPICプログラムを理解して、プログラムの変更がいつでもできるようにしてと言われたので、記事にしながらせっかくですので、PICについても紹介。

本記事では、技術的な側面、使用されるマイコンや通信方法のメリット・デメリット、そして全体的な概要について詳しく解説します。

マイコンの選択

オーディオデバイスのレジスター制御に使うには、適切なマイクロコントローラー(マイコン)の選択が重要です。

以下に一般的に使用されるマイコンとそのメリット・デメリットを紹介します。

マイコン メリット デメリット
ARM Cortex-Mシリーズ
  • 高性能で低消費電力
  • 豊富な開発リソースとコミュニティサポート
  • 多様な周辺機能を搭載
  • 学習コストが高い場合がある
  • 一部モデルはコストが高め
AVRマイコン(Microchip社)
  • シンプルで学習しやすい
  • コストパフォーマンスに優れる
  • オープンソースの開発環境が豊富
  • 処理速度やメモリ容量が限定的
  • 高度な機能を実装する際に制約がある
PICマイコン(Microchip社)
  • 広範な製品ラインナップ
  • 低消費電力設計が可能
  • 開発環境が他のマイコンに比べて限定的
  • 学習リソースが少ない場合がある

今回はPICを使いますが、やっぱり最初の疑問がRaspberry Pi PicoとPICの違いについてだと思います。

Raspberry Pi PicoとPICの違いをわかりやすく表にまとめました。

項目 Raspberry Pi Pico PICマイコン
プロセッサ デュアルコア ARM Cortex-M0+ 8/16/32ビット 単一コア
クロック速度 最大133MHz 数MHz〜数十MHz
メモリ 264KB SRAM、最大16MBフラッシュ 数KB〜数百KBのフラッシュとRAM
周辺機能 GPIO、I2C、SPI、UART、ADC、PWMなど豊富 I2C、SPI、UART、ADC、PWMなど必要十分
プログラミング言語 C/C++、MicroPython、Arduino言語 C言語、アセンブリ言語
開発環境 公式SDK、Arduino IDE、MicroPython環境 MPLAB X IDE、MPLAB XCコンパイラ
消費電力 比較的高い 低消費電力
価格 非常に安価(数百円程度) モデルにより異なるが安価
用途 高性能アプリケーション、学習用途 組み込み制御、量産製品

違いに対して詳細な解説

ここからは、よりPICについてしっかり知っておくために詳細な解説をみていきます。

アーキテクチャの違い

Raspberry Pi Picoは、デュアルコアのARM Cortex-M0+を搭載しており、高速な処理能力を持ちます。一方、PICマイコンは単一コアで、ビット数も8ビットから32ビットまで幅がありますが、一般的には性能はかなり控えめであるといえます。

メモリ容量と拡張性

Raspberry Pi Picoは、264KBのSRAMと最大16MBの外部フラッシュメモリをサポートしており、大規模なプログラムやデータを扱うことが可能です。

対してPICマイコンは、モデルによりますが、メモリ容量は数KBから数百KBと限られています。

周辺機能と拡張性

Raspberry Pi Picoは、多彩な周辺機能に加えて、**PIO(Programmable I/O)**という独自の機能を持ち、カスタムプロトコルの実装などが可能です。

PICマイコンも必要な周辺機能を備えていますが、PIOのような柔軟性はありません。

プログラミング言語と開発環境

Raspberry Pi Picoは、MicroPythonに対応しており、Pythonができれば初心者でも手軽にプログラミングが始められます。

また、C/C++やArduino IDEもサポートしていますので、エンジニアの使用言語に合わせてカスタマイズ可能。

一方でPICマイコンは、主にC言語かアセンブリ言語での開発となり、公式の開発環境であるMPLAB X IDEを使用しますので、Pythonなどの難易度の低いスクリプト言語しか触ったことがないとかなり苦労します。

消費電力とサイズ

PICマイコンは、低消費電力設計が可能で、バッテリー駆動のデバイスや省エネが求められるアプリケーションに適しています。

Raspberry Pi Picoは性能が高い分、消費電力も増加します。

価格と入手性

Raspberry Pi Picoは非常に安価で、手軽に入手可能です。

PICマイコンもモデルによりますが、一般的に安価で入手しやすく、数百円規模で豊富なラインナップから選択できます。

どちらを選択するの?ポイント

Raspberry Pi Picoが適している場合

  • 高度なデータ処理や複雑なアルゴリズムを実装したい。
  • Pythonでの開発を希望し、学習用途やプロトタイピングを行いたい。
  • 豊富なメモリと高い処理能力が必要。

PICマイコンが適している場合

  • 低消費電力で長時間動作させたい。
  • コストを抑えて量産製品を開発したい。
  • リアルタイム性が求められる制御を行いたい。
  • ハードウェアリソースが限られていても問題ないシンプルな機能。

PICマイコンのメリットまとめ

低消費電力での動作

オーディオデバイスは連続的な動作が求められるため、マイコンの消費電力は重要な要素です。

PICマイコンは低消費電力モードを備えており、バッテリー駆動のデバイスでも長時間の動作が可能です。

高い柔軟性と拡張性

多様な周辺機能を内蔵しているため、追加のハードウェアを必要とせずに様々な機能を実装できます。

例えば、内蔵のI2CSPIを使用してオーディオデバイスと通信し、レジスター制御を行えます。

コストパフォーマンスに優れる

PICマイコンは低価格で入手可能なモデルが多く、コストを抑えた開発が可能です。

これにより、製品の価格競争力を高めることができます。

通信方法の選択とメリット・デメリットを把握

通信方法 メリット デメリット
I2C通信
  • 2線式でシンプルな接続
  • 複数のデバイスをバスに接続可能
  • 通信速度が比較的遅い(最大3.4Mbps)
  • バスの容量負荷が増えると信号品質が低下
SPI通信
  • 高速通信が可能(数十Mbps)
  • フルデュプレックス通信に対応
  • 信号線が多くなる(最低4本)
  • 複数デバイス接続時の制御が複雑
UART通信
  • シリアル通信で長距離伝送が可能
  • ハードウェア実装が容易
  • 同時に接続できるデバイスが限られる
  • エラーチェック機能が限定的

開発環境とリソース

MPLAB X IDE

Microchip社が提供する無料の統合開発環境で、PICマイコンのプログラミングとデバッグが可能です。

クロスプラットフォーム対応で、Windows、macOS、Linuxで利用できます。

MPLAB XC コンパイラ

C言語での開発をサポートする無料のコンパイラです。

最適化オプションが豊富で、コードサイズや性能を調整できます。

デバッグツール

  • PICkit 4:手頃な価格のデバッグツールで、プログラミングとデバッグが可能
  • ICD 4:高速なデバッグとプログラミングが可能なプロフェッショナル向けツール

PICライタの使用方法と選択肢

オーディオデバイスのレジスター制御において、PICマイコンを使用する際には、プログラムをマイコンの内部に書き込む必要があります。

新品のPICマイコンはプログラムメモリが空の状態で出荷されるため、PICライタを用いてプログラムを書き込みます。

PICライタがないと書き込みはできません。

また、プログラムの変更や修正が必要な場合にも、その都度PICライタを使用して書き換えを行います。

PICライタとは

PICライタは、PICマイコンにプログラムを転送するためのデバイスです。

  • プログラムの書き込み:開発したコードをPICマイコンのプログラムメモリに書き込みます。
  • デバッグ:コードの実行状況をリアルタイムで監視し、問題の特定と修正を支援します。

主なPICライタの種類

Microchip社からは、いくつかの純正PICライタが販売されています。

製品名 メリット デメリット
PICkit 4
  • 手頃な価格でプログラミングとデバッグが可能
  • 最新のPICマイコンに対応
  • MPLAB X IDEとシームレスに連携
  • 一部の高機能デバッグ機能は未対応
ICD 4
  • 高速なプログラミングとデバッグが可能
  • 大規模プロジェクトに適した高性能モデル
  • 価格が高め

PICライタの使用方法

ステップ1:PICライタの接続

  1. ハードウェアの接続
    • PICライタをPCのUSBポートに接続します。
    • PICライタとPICマイコン(ターゲットデバイス)をICSP(In-Circuit Serial Programming)ケーブルで接続します。
  2. 電源の供給方法の確認
    • PICライタからターゲットデバイスに電源を供給する設定か、外部電源を使用するかを確認します。

ステップ2:MPLAB X IDEでの設定

  1. プロジェクトを開く
    • MPLAB X IDEで開発中のプロジェクトを開きます。
  2. PICライタの選択
    • メニューから「ファイル」→「プロジェクトのプロパティ」を選択します。
    • 「カテゴリ」から「プログラマ/デバッガ」を選び、使用するPICライタ(例:PICkit 4)を選択します。
  3. デバイスの選択
    • 使用するPICマイコンの型番が正しく選択されていることを確認します。

ステップ3:プログラムの書き込み

  1. ビルド
    • ツールバーの「ビルド」ボタンをクリックして、プロジェクトをコンパイルします。
  2. 書き込み
    • 「プログラム」ボタンをクリックします。
    • MPLAB X IDEが自動的にPICライタを認識し、プログラムを書き込みます。
  3. 進行状況の確認
    • コンソールウィンドウで書き込みの進行状況と結果を確認します。

ステップ4:デバッグ(必要に応じて)

  1. デバッグモードの開始
    • 「デバッグ」ボタンをクリックして、デバッグセッションを開始します。
  2. ブレークポイントの設定
    • 必要な箇所にブレークポイントを設定し、コードの動作を確認します。
  3. ステップ実行
    • ステップイン、ステップオーバーなどの機能を使って、コードを一行ずつ実行します。

PICライタは、PICマイコンを用いた開発において不可欠なツールです。

特に、Microchip社の純正PICライタを使用することで、開発環境との高い互換性と信頼性を確保できます。

PICマイコンの活用事例

簡単な制御だったらPICでOK。

ラズパイを使うまでもないものはどんどんPICを活用していきたいですよね。

PICマイコンの活用事例

PICマイコンの活用事例

# 分野 事例 用途
1 家電製品の制御 洗濯機、エアコン、電子レンジ モーター制御、センサーデータ処理、タイマー機能
2 ロボット制御 ホビーロボット、産業用ロボット モーターの回転、アームの動き、センサーのフィードバック処理
3 IoTデバイス 温度・湿度モニタリング、ホームオートメーション センサーデータ収集、通信モジュールとの連携
4 LED表示装置 デジタルサイネージ、スコアボード LEDドライバ制御、動的表示パターン生成
5 産業用センサー 温度・圧力モニタリング アナログ信号のデジタル変換、リアルタイムデータ処理
6 電源管理システム ソーラーパネルのMPPT制御、BMS 電力効率の最適化、充放電管理
7 車載システム ECU(エンジン制御ユニット)、インフォテインメント センサーとアクチュエータの制御、CAN通信プロトコルの実装
8 医療機器 ポータブル心電図、血圧計 生体センサーデータの収集と処理、表示機能の実装
9 オーディオ機器 ギターエフェクター、デジタルミキサー オーディオ信号のリアルタイム処理、デジタルエフェクトの適用
10 教育用キット プログラミング学習用ロボットキット、デモボード 基礎的なプログラミング学習、センサーとアクチュエータの基礎実験