【試聴レビュー】MarkAudio(マークオーディオ)徹底解説:英国発フルレンジ専門ブランドの歴史と哲学、13cmユニット試聴レビュー

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自作スピーカーの世界で、ここ十数年で着実に存在感を高めてきたフルレンジユニット専門ブランドが MarkAudio(マークオーディオ)です。

Alpair、Pluvia、CHシリーズ、そしてMAOPシリーズ――いずれも「シングル/ワイドレンジ」志向のユーザーにはおなじみの名称ですが、そもそも「MarkAudioとはどんな会社で、どこの国のブランドなのか?」までは意外と知られていません。

私自身、録音エンジニアとして日々さまざまなスピーカーと向き合っていますが、今回13 cmフルレンジユニットを使ってみたい、噂でいい音だと聞くMarkAudioを試してみたいということで、MarkAudioの歴史や設計思想を改めて掘り下げることにしました。

本記事では、MarkAudioというブランドの成り立ち・拠点・哲学をできるだけ詳しく整理したうえで、実際に13 cmフルレンジユニット(CHP-90など)を組んで試聴したインプレッションをお届けします。

「MarkAudioが気になっているけれど、どのユニットを選べばいいか分からない」「フルレンジ一発の世界をちゃんと理解したい」という方の参考になれば幸いです。

Profile

この記事を担当:朝比奈幸太郎

1986年生まれ
音大卒業後日本、スウェーデン、ドイツにて音楽活動
ドイツで「ピアノとコントラバスのためのソナタ」をリリースし、ステファン・デザイアーからマルチマイク技術を学び帰国
帰国後、金田式DC録音専門レーベル”タイムマシンレコード”て音響を学ぶ
独立後芸術工房Pinocoaを結成しアルゼンチンタンゴ音楽を専門にプロデュース
その後写真・映像スタジオで音響担当を経験、写真を学ぶ
現在はヒーリングサウンド専門の音楽ブランド[Curanz Sounds]を立ち上げ、音楽家, 音響エンジニア,として活動
五島昭彦氏より金田式DC録音の技術を承継中
当サイトでは音響エンジニアとしての経験、写真スタジオで学んだ経験を活かし、制作機材の解説や紹介をしています。
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MarkAudioとは?ブランドの概要

MarkAudio は、英国出身の機械設計エンジニア Mark Fenlon 氏が創設した、スピーカーユニット設計・製造企業です。

氏のバックグラウンドには、流体・材料・動き制御といった工業系設計の知見があり、そのノウハウをスピーカードライバー設計に活かしてきました。

公式サイトには、「MarkAudio is an audio speaker product design and manufacturing company based in Quangdong Province, South China. Established for 11 years…」とあり、設立後、ヨーロッパのオーディオブランド向け部品供給から自社ブランドユニットの開発へ移行した、と説明があります。

また、製造・販売体制としては、香港を拠点にアジア地域のサプライチェーンを活用しつつ、設計・技術開発は英国設計者の思想をベースにしているという「国際融合型」のブランドであることが読み取れます。

例えば、日本の専門家が設計協力している旨も公式に記されています。

日本国内では、自作スピーカー愛好家やハイエンドユニットを求めるユーザー層に支持されており、販売店/キットメーカーを通じて「Alpair」「Pluvia」「CHシリーズ」などのユニットが流通しています。DIY自作/録音モニター用途双方で注目されているブランドと言えます。

公式サイトはこちら(外部サイトへ)

創業と歴史、成り立ち

MarkAudio の歩みを振り返ると、「設計者の工業的素養」「部品供給から自社ユニット開発へ」「アジア製造拠点の活用」という重要な節目が見えてきます。

Mark Fenlon氏は、オーディオ設計以前に材料流動・機械機構の設計を30年近く手がけてきた技術者であり、これがスピーカーユニット設計における「軽量化」「薄型化」「長ストローク化」といった特徴に繋がっています。

初期段階では、ヨーロッパのオーディオブランド向けにユニットやコンポーネントを供給するOEM的な活動があり、それを経て「MarkAudioブランド」としてフルレンジユニットを展開する方向へシフトしたことが、公式サイトで明記されています。

2010年代以降、設計・製造体制の見直しもあり、例えば 2013年以降は Mark Fenlon氏が療養中という報告がDIYフォーラムで挙がっており、その後は香港・中国を軸とした運営体制に移行してきました。

法人としては、香港に “Markaudio Loudspeakers Limited” という会社が登録されており、輸出入データ上も香港発のエクスポート実績が確認できます。

このように、MarkAudio の歴史と成り立ちは「英国設計思想+アジア製造基盤+自社ブランド展開」という三位一体の構造として理解できます。

設計哲学と「フルレンジ」である理由

MarkAudio がフルレンジ/ワイドレンジドライバーに特化しているのは、音楽再生において「位相の整合」「タイムアライメント」「ドライバー切り替えによる位相/位相遅れを極力回避する」という理念が背景にあります。

Mark Fenlon氏は「単一振動面で広帯域を扱うには、質量・剛性・ストロークなど多くの要素をバランスさせなければならない」と述べています。

具体的には、コーン材質を極力軽くしながら剛性を確保し、サスペンション構造を改良することで「単一ユニット一本で音楽を再生できる」設計を追求してきました。

これは、“クロスオーバー不要”という利点だけでなく、録音/再生の現場で「音像定位」「瞬時応答」「自然な空気感」を得やすいという面でも有効です。

そのため、MarkAudio のユニット設計には「カスタム製バスケット」「新素材コーン」「長ストロークボイスコイル」「高効率モーター構造」などが採用されており、製品ごとにその設計思想が具現化されています。

たとえば、AlpairシリーズやPluviaシリーズで採用されてきた技術は、その典型です。

録音エンジニアとしても重要なのは、「再生スピーカーとして、録音された音の時間構造や定位・残響をどう出せるか」という点です。

MarkAudio のフルレンジユニットは、この観点からも「ドライバー数を絞ることで、リスナー/録音エンジニア側での制御を明快にしやすい」選択肢と捉えることができます。

代表シリーズと、13 cmフルレンジ

MarkAudio のラインナップを俯瞰すると、大きく Alpair・Pluvia・CH(CHP/CHR)・MAOP といったシリーズがあります。

Alpairはメタルコーン採用などハイエンド志向、Pluviaは技術を広く普及させるための価格帯、CHシリーズは素材を紙やガラス繊維等にして音楽性重視、MAOPは限定・特殊処理モデルという位置づけです。

今回レビューする「13 cmクラスのフルレンジユニット」は、CHシリーズ(たとえば CHP-90/CHR90)あたりに該当するモデルです。

13 cm(約90mm口径)というサイズでフルレンジを実現するためには、低域再生能力の確保・エンクロージャー設計の工夫・材料の軽量化・ストローク確保などが重要になります。

公式サイトにも CH シリーズユニット用の「Cabinet plans」や「resource links」が用意されており、自作ユーザー向けにも設計支援がなされています。

例えば、CHP-90 mica では Fs(共振周波数)約 48 Hz 程度という仕様も見られ、13 cm級としては余裕がある低域特性を狙っていることが伺えます。

自作設計においては、密閉箱/バスレフ箱/MLTL(バックロード)など複数の選択肢が検討できます。

録音スタジオ用途・ブログ記事用途ともに、「いかにこの13 cmユニットを活かすエンクロージャー設計にするか」が鍵になるでしょう。

密閉型かバスレフ型か?

エンクロージャーを探す、設計する際、密閉型なのか、バスレフ型なのか?マニアでなければ大きく分けて二つの選択肢があると思います。

筆者は圧倒的に密閉型がおすすめで、密閉型以外は聞けないというくらい。
一般的にはバスレフ型の方が低音が出せる!というニュアンスで語られることが多いですが、実際バスレフ型で低音を出すとしても、ちゃんと出ないことがほとんどであり、ほとんどの場合はぼやけた感じで出てくるかと思います。

ちゃんと設計すればちゃんとした低音が出る!と主張するその気持ちはわかります。

密閉型の場合は、バスウーファーなどを増設し、低域をコントロールしながら出すといったことが一般的だと思いますが、これも個人的にはかなり難しいと感じています。

というのは、それはチャンネルデバイダーで出せばいいというわけですが、そこまでは、、、いいというリスナーさんは、スピーカーパラレルで接続することが多いのではないでしょうか。

限定されたサブウーファーにパラレルで出力するのであれば、もはやない方がいいと思うのです。

実際密閉だけで聞くベースの音ってかなり締まっていて固く、輪郭がはっきりしています。
これは録音現場でのミュージシャンとEQの議論をするときにもよく起こることなんですが、「低域を出す」というのは、低音を出すとは違うわけです。

ただ、密閉で使う場合、スーパーツイーターだけはパラレルで置いています。

スーパーツイーターをつける効果はかなりのもので、低域がより引き締まり、硬く明瞭な音で響いてくるのです。

また、密閉の場合は、スピーカーでよくある、ロシアンバーチのエンクロージャーが最高です。

🎼 ロシアンバーチ(Russian Birch)とは

ロシアンバーチとは、ロシア北西部からフィンランド周辺にかけて育つシラカバ(Betula pendula)を原料にした高密度積層合板(バーチプライウッド)のことです。
この木材は、硬度・比重・内部損失(インターナルロス)のバランスが極めて優れており、スピーカーエンクロージャー材として理想的とされています。

通常の合板よりも層が細かく、1枚あたり13層(18mm厚の場合)ほどの緻密な構造を持ち、どの層にも隙間や空洞がないのが特徴です。
つまり「音響的にムラがない」素材です。

最近は国際情勢の関係でロシアンバーチは手に入りにくく、フォンランドバーチ材や、ラトビアバーチ材というのが新たに人気になりつつあります。
この辺りのエンクロージャーの材質による音の変化は追記していこうと思っています。

素材比重 (kg/m³)音響特性音の印象
MDF600–650吸音傾向、内部損失大鈍いが柔らかい音
パーチクルボード650不均一な共振やや濁りが出やすい
合板(国産バーチ)700前後硬く反応早い明るいが硬質
ロシアンバーチ730前後高剛性・低損失・均質タイトで艶やか、倍音が美しい

現在ではなかなか探すのは大変かもしれませんが、フルレンジ密閉を使うならロシアンバーチがやっぱり最高です。

ここから試聴レビューにいきましょう。

実際MarkAudio(マークオーディオ)のフルレンジユニットは、周波数帯の広さから、低音から高音までかなりの帯域で聴かせてくれます。

そのため、フォステックスの12cmで使っていたスーパーツイーターを取り付けると帯域で喧嘩してしまう・・・そのため、フルレンジ内で本当にすべて完結するという印象です。

低域の聞こえやすさに驚く方も多いと思います。

密閉といえども、ここまで低域をしっかりと出せるとなるとサブウーファーや、バスレフ系への加工などは不要かと思います。

故にフルレンジのロマンというか、そういうのは十分に感じることができます。

一方で好みははっきりと分かれるスピーカーでもあるわけです。

スピーカーに求めるものは人それぞれ違うでしょう。
筆者の場合は金田式DCアンプでパワフルに鳴らすこと、電流のスピード感をダイレクトに伝えてくれるということ。

一方で、解像度、定位感、バランスなどを重視する方もいらっしゃると思います。

MarkAudio(マークオーディオ)は圧倒的な後者であるわけです。

そういう意味では業務用のスピーカーと位置付けて問題ないと言えるほど。

例えばECM系ジャズアルバムなどを聴くと、さらにお風呂感は増していきますので、筆者は個人的に音酔いしてしまうほど、、、
それは元々デッドなマスタリングが好きな体質もありるわけですが、それだけミックス・マスタリングで処理されている音が階層としてしっかり聞こえるということ。
つまり解像度は素晴らしいものなのです。

他にもモータウン系の音楽を聴いたりすると、これまで感じたことのないパートが聞こえてきたり、定位感も、「あ、このパートはこの位置だったんだ!」という発見があったりします。

イギリス系の有名ブランドといえば、Bowers & Wilkinsや、Tannoyなどがあるかと思いますが、やはりイギリスサウンドというのは共通しているというニュアンスで伝わるでしょうか。

ながらく日本のオーディオといえば、Tannoy系かJBL系か。
クラシックとジャズでそれぞれ派閥とも言える2つの系統で進化してきたと言えますが、間違いなくMarkAudio(マークオーディオ)は、Bowers & Wilkinsや、Tannoy系です。

好みが合えば最高でしょう。
実際に、性能面でみると、Bowers & Wilkinsや、Tannoy等の2way, 3way機と同等の音がフルレンジ一本勝負で出せているという点は非常に興味深いと思います。

今回はロシアンバーチ18mmを使いましたが、設計的には、もう少し厚みのあるものだとより相性がよかったのだと思います。

エンクロージャーの設計をしっかりすることで、往年のイギリス名機と近いサウンドを手に入れることができる・・・という優位性は確かに感じました。

一方で好みが合わない方の場合でも、定位感や解像度は申し分ありませんから、業務用スピーカーとして活躍してくれるはずです。

筆者も実際に日常の試聴ではやはりフォステックス系のユニットがいいですが、仕事用としてこれからMarkAudio(マークオーディオ)活用していこうと思います。

選ぶ際のポイントと注意点

MarkAudio のユニットを選ぶ際には、「どのシリーズか」「口径・能率・許容入力・エンクロージャー設計との適合」「部屋/アンプ環境とのマッチング」が重要です。

特に13 cmクラスという選択肢は、自作スピーカー初心者には多少ハードルが高めであることを理解しておく必要があります。

素材や設計の高度さゆえに、エンクロージャーの品質、内部減衰/音響処理、設置環境が音質に与える影響が相対的に大きく出やすいからです。

そのため、自作経験がある、あるいは測定環境(測定マイク・測定ソフト・音響処理)が整っている環境での設計・制作が望ましいと言えます。

逆に、「箱は適当に作って音だけ期待」というアプローチでは、MarkAudioユニットの潜在力を十分に引き出すことは難しい可能性があります。

その場合はやはりフォステックスが安定してパンチの聞いたパワフルなサウンドを出してくれますので、12cmあたりがちょうどよく、おすすめです。

まとめ

MarkAudioは、英国人設計者の工業的設計思想、香港/中国製造拠点という国際的な枠組み、そして「フルレンジユニット一本勝負」という明快な設計哲学によって成立しています。

13 cm級フルレンジユニットを検討している方。

イギリス系老舗サウンドが好きな方、古楽やクラシック音楽を主に試聴する方は、エンクロージャーの設計をしっかり、その性能を存分に引き出すことができれば伸び代は無限大!そんなユニットです。