筆者のピアノ作品を聴いた方からよく聞かれるのが「楽譜はありますか?」「この音楽は再現性はあるのか?」という質問。

当然インプロビゼーションの割合が高いものや、即興の作品は記譜としての「再現性はない」

いえ、「ない」という表現はふさわしくなく、再現性が低いと言い換えなければなりません。

インプロビゼーションも即興も発信するアーティストの創造性が基盤にあるからです。

さらに、コード譜のみの作品、もう少し詳しく記譜されたものの3種類に分かれていますといつも回答しています。

抽象度合いを意図的に上下しているという表現が正しいのかもしれません。

リーマン予想をまだ人類は解明していないのと同様で、ある現象に対して抽象思考力、俯瞰力と言い換えることもIQと言い換えることもできるかもしれないが、下から上は見えないし、上から下は見えるわけです。

これはリズムの概念などとも共通しているかと思います。

楽譜とは何か

楽譜と言われるとほとんどの方が西洋古典音楽のおたまじゃくしをイメージすることでしょう。

なぜか日本の義務教育では西洋音楽しか教えませんから。

ところが仏教にネウマ譜があったり、神道でも譜本があったり、楽譜というものは様々な地域や文化宗教で存在しています。

つまり楽譜とは何か?というと、再現性の確保です。

そしてそれも抽象度合いによって再現性の割合は変わります。

西洋古典的な算数概念を軸に記譜されたものであると再現性は非常に高いと思われています。

神道の譜本を観ると手と小節しか書いてませんから再現性は低いと思われる傾向が強い。

これは同時に口伝継承度が高いと言い換えることができます。

口伝継承が高いと言い換えることで実は再現性はどちらも同じなんじゃないか?と観ることができますよね。

西洋古典では算数的な辻褄を合わせるために芸術という最大の抽象空間を無理やり論理の中に閉じ込めてしまっています。

口伝継承度の高い文化は、果たして正確に伝言できているのか?という疑問が出てくるわけで、どちらも再現性に関して変わりはないわけです。

つまり西洋古典音楽形式での楽譜を残しているからといって特別再現性が確保されているわけでもないため、筆者は脳内での記譜、またアンサンブルようにコード譜をつくるという物理的なアプローチを持ちつつ、最も高い再現性を録音技術に求めているというわけです。

自作自演

西洋古典音楽の場合楽譜のアナライズというものがあり、時代背景や文化的政治的な側面を考証しながら表現方法を見出していくという作業があります。

当然自作自演の録音作品は再現性マックスですよね。

ブラームスやラフマニノフの自作自演は残っていますが、「その表現方法は間違っている!解釈が違う!」と異を唱える人はいないでしょう。

チックコリアにスペインのアドリブはこんなアプローチでやるもんなんだよ!と教える人はいないと思います。(いても面白いですが)

楽譜というのは古今東西再現性を高めるために工夫されてきましたが、録音技術というのは、その集大成とも言える存在であり、音楽を伝承するのにこれ以上正確なスキルはないわけです。

コンピューターに任せてより高い思考を

伝承するための記譜という作業にいったいどれほどの時間を費やしたことでしょう。

また、音楽史の中で多くのアーティストが火事や災害でこの世に伝承したかった作品の数々が消滅したのをご存知でしょうか。

そういった意味でも地震大国日本の譜本は口伝継承度を高めていたのかもしれませんね。

西洋ではきっとオルゴールが誕生した時に真っ先に「これで火事が怖くない」と思ったはずです。

フランツ・リストの楽譜が火事で燃えたら自筆で再現するのはかなり難しいですが、雅楽の曲は簡単に譜本に起こせます。

現在では記録するための技術にMIDI(クオンタイズオフ)もあればオーディオ録音もあるわけですから、記録と伝承はコンピューターに任せるというのも一つの選択肢なのかもしれません。

楽譜が書けない音楽家はいないわけですが、それはなぜかというと、記録と伝承のためであるわけで、録音技術が確立した現代で録音ができない音楽家というのは楽譜が書けない音楽家と同意なのかもしれませんね。

より高い再現性を確保したいのであれば。

少なくとも筆者はそのように考えています。

プロフィール

こうたろう
こうたろう
音大を卒業後ピアニストとして活動。
日本で活動後北欧スウェーデンへ。
アーティストLindha Kallerdahlと声帯とピアノによる即興哲学を研究。
その後ドイツ・ケルンに渡りAchim Tangと共にアルバム作品制作。
帰国後、金田式DC録音の第一人者:五島昭彦氏のスタジオ「タイムマシンレコード」にアシスタントとして弟子入り。
独立後音楽レーベル「芸術工房Pinocoa(現:Kotaro Studio)」を結成。
タンゴやクラシックなどアコースティック音楽作品を多数プロデュース。
大阪ベンチャー研究会にて『芸術家皆起業論~変化する社会の中、芸術家で在り続けるために』を講演。
その後、秋山庄太郎氏後継の写真スタジオ「村上アーカイブス」でサウンドデザイナー兼音響担当として映像制作チームに参加。
村上宏治氏の元で本格的に写真、映像技術を学ぶ。
祖父母の在宅介護をきっかけにプログラムの世界に興味を持ち、株式会社 ジオセンスの代表取締役社長:小林一英氏よりプログラムを学ぶ。
現在はKotaro Studioにて『あなたのためのアートスタジオ』音と絵をテーマに芸術家として活動中。
2023年より誰かのための癒しの場所『Curanz Sounds』をプロデュース。

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