大変素晴らしい実験をされていたので解説しながらシェアしていきます。
ピアノの音響実験はKotaro Studioでも企画中で、今回シェアする実験と近いものを計画しています。
今回の名古屋芸術大学、ベルリン芸術大学、東京藝術大学 共同研究は、『ワンポイントよりもマルチマイク用の音響実験』の項目で解説しています通り、各位置の特性要素を理解する上では大変有益な実験で在ると言えます。
ピアニストの方や、録音エンジニアを目指す方は是非すべての位置でのマイク特性をチェックしておきましょう。
出典:グランドピアノ録音におけるマイク配置の研究:音楽に適した音色を求めて

簡易紹介:こうたろう
1986年生まれ
音大卒業後日本、スウェーデン、ドイツにて音楽活動
その後金田式DC録音のスタジオに弟子入り
写真・映像スタジオで音響担当を経験し、写真を学ぶ
現在はヒーリングサウンド専門のピアニスト、またスタジオでは音響エンジニア、フォトグラファーなどマルチメディアクリエーターとして活動中
当記事ではプロのピアニスト、音響エンジニアとしての知識とスキルをシェアしていきます
録音を教えられるのか?
- ピアノ調律技術は伝えられるのか?
- 録音技術は伝えられるのか?
- ピアノ演奏技術は伝えられるのか?
現状この三つは一人の音楽家としてのわたしの回答は暫定的にNOと言わざるを得ません。
ただしミュージシャン、ピアニストとしての視点であればYESと答えなければいけません。
どっちなんだい?!(きんにくん)という話。
これら三つの技術は人間の感性こそがすべてであり、その感性をデータ化する、デジタル化させるというのはまた別の業界の話になってくるかと思います。
故にこれまでも様々なアプローチで世界中で試みられてきましたが、未だに人類は完全なるピアニストのメソッド、完全なる調律師のメソッド、完全なる録音エンジニアのメソッドは完成させられていません。
ミケランジェリのタッチと指をデータ化
ミケランジェリのタッチの圧、速度、湿度、指の動き、それらをすべてデータ化して、人間とほぼ同じ質量の手のロボットに入力して、再現することはできるでしょうか。
実は音楽を全く知らない科学者、物理学系の友人から言わせると、『そりゃできるに決まってる。時間はかかるけど、お前は音楽とプログラミングできるんだからやってみたら?』と言われたことがあります。
ただ、これ音楽家から見たら到底できるはずがありませんよね。
ではなぜできるはずがないと一瞬で判断することができるのでしょうか。
それは感性こそが軸、ベースとなり、技術は最後に載せるラッピングにすぎないことをわたしたち音楽家、芸術家は知っているからです。
演奏はできないのはわかってるけど、調律と録音はもしかするとできるんじゃないか?
と思ってしまう。
それはなぜでしょうか?
調律と録音は技術の上に感性を載せるからです。
演奏という分野は技術が不十分でも感性だけが強烈に強ければ成立します。
それは筆者も大好きなこの谷川賢作氏の合唱作品を聞けばわかると思います。
小学生ですから、技術が不十分なのは当たり前。
でもそんなの関係ない。
録音技術は伝えられるのか?!
ミケランジェリのデータ化は無理。
根拠はないけど無理です。
だから誰もやってみないんだと思います。
可能ならアルゲリッチが世界中を飛び回る必要がなくなります。
録音技術はある程度までは伝えられると思います。
技術の上に成り立つものだからです。
でも最後の感性の部分はミケランジェリのデータ同様どうやったって伝えることができないのかもしれません。
できないだろうからやらない・・・は違う
それでもやってみる、トライしてみるというこのマインドが本当に素晴らしいことで、尊敬の念に堪えません。
録音方法は感性の部分は伝えられない。
だから音響特性の資料をデータとしてアーカイブする。
という意図のもと進められているはずです。
完全なHow to化を実現させることは無理なのですが、場所によって音響特性は大きく変わりますので、技術的な参考資料としては大変素晴らしい研究であることを重ねて申し上げさせていただきます。
例えばこちらはスタジオでテストしたものですが、KM184のピアノ位置での音響比較。
【NEUMANN KM 184】各マイク位置でのピアノ音源テストや比較なども!
ワンポイントよりもマルチマイク用の音響実験
先ほどのKM184でのピアノ位置テストもそうですが、こういう場所による特性の違いは、ここでワンポイント録音を検討するというよりは、要素として付加価値を検討するという目的意図が強いと思います。
例えば注目してほしい点が、後述します図のWの位置。
この位置のマイクでは低域の特性が非常に個性豊かなものになっていることがわかると思います。
こちらはわたしもピアノ録音をマルチマイクで行うときにはよくやる手法なのですが、メインマイクを決めて補助マイクとしてWの位置から指向性マイクを使う。
このWの要素をミックスで足していくことによってピアノのボディサイズがワンランク以上アップします。
また、H,I,J付近の音は高域の湿度を低下させる要素を持っていることもわかると思います。
これらは音が艶やかになりすぎたとき、タッチに湿り気が多すぎた時の調整用の要素として捉えることができます。
このように、位置によってどんな要素を加えられるのか?という視点でみる必要があり、決してこの位置にマイクを置きましょうという視点でみることのないよう注意が必要です。
録音システムの解説
今回の実験ではSchoeps MK2Hをステレオペア、無指向性AB方式で様々な位置で音響の聴き比べを行っています。
この設定故に無指向性のワンポイント録音のベストな位置を見つける!
という実験だと勘違いしてしまいがちですが、わたしたちが見るべきところは先述の通り、要素としてのデータアーカイブです。
実験での幅は55cm。
AB方式の幅は長いものでは1mのケースもあるほどで、基本的には30cm以上幅がないとステレオ感がでにくいといわれており、長いマイクバーが必須となっています。
【重要パーツ】サウンドハウスで機材を買う時に一緒に買っておきたい3つのアイテム
ちなみに当スタジオでのピアノ録音の暫定的なAB方式の幅は30cm〜33cmの範囲としています。
参考にしてみてください。
また、AB方式の幅による音の違いに関してはこちらの記事の参考音源を参照してみてください。
【このマイク、凄いです】SENNHEISER MKH8040, MKH8020を徹底分析


このように同じマイク同じ幅のAB方式でマイクを配置。
比較のためにノイマンのダミーヘッドを使ったバイノーラル録音も用意されています。
Sennheiser AMBEO VR MICや、NeumannKU100も設置。
バイノーラルマイクに関してはこちらの記事。
【F3 + DPA4560】バイノーラルの最高峰セットを考える
マイクアンプはRME 12Micを使用しており、機材設備の選択としては誰がみても納得のシステムとなっています。
RME ( アールエムイー ) / 12Mic 12chマイクプリアンプ をサウンドハウスさんでみてみるすべてのマイク位置を試聴可能
特設ページにてすべてのマイク位置を試聴することができますので、多くのピアニスト、録音エンジニア、調律師の参考になるかと思います。
Research on microphone arrangement in the grand piano recording
まとめ:次の実験のために考察すること
今回の実験では最高のマイク、最高のマイクアンプを使って無指向性のペアマイク録音どの位置にどんな音響特性があるのか?についてアーカイブされています。
ただ、なぜそこに置くのか?という基準点が曖昧なままのテストとなっており、検証としてはまだ上を目指せるかと思いました。
このような形式のホールの場合、空間座標すべてが暫定的に良い音であると仮定しなければいけません。
だからこそ無指向性のワンポイント録音は難しい、そして魅力があり、はまったときの音は凄まじいものになるわけです。
また、反響版から発せられた倍音やホールに行き渡った後の反響音、それらは椅子の数、材質、角度などによっても速度が変わりますし、質も変わります。
当然、満員御礼状態のライブ録音では再現不可能なわけです。
ここをどうクリアしていくのか?
当然良い音の定義も人の数だけあるわけです。
現状ではPython技術を使った音の人工知能なども、マッチできるWAVEデータはざっくりしすぎていて現実的とはいえません。
Kotaro Studioで実験をするとしたらどの位置で良い音、音響特性が取れるのか?
ではなく、『なぜそこに置くのか?』を最優先に考えた検証方法を考察していきたいと思います。
つまり、感性的な意図をまず最初に決めてそれにそって検証していくというアプローチを取りたいと思います。
それがわたしたちのスタジオのテーマとしても掲げている『ただ、ここに在る』の原理原則に基づいた実験で在るような気がします。
金田式DC録音も、ただ、ここに在る状態です。
【金田式DCマイク】 ショップス MK2, DPA2006カプセルでテストレポート:マイクに対する考え方
結論としては調律、録音、演奏、これらは少しずつ、伝言ゲームで地道に伝えていくしか道はないのかもしれません。
今回の大学の研究音源はみなさんどの音源、どの音響特性がよかったですか?
そしてどの特性をどの特性と混ぜたいですか?
個人的にはやっぱりベヒシュタインは特別なピアノだな・・・という印象が強すぎて他があんまり入ってきませんでした。
では。
画像や研究の出典:グランドピアノ録音におけるマイク配置の研究:音楽に適した音色を求めて
プロフィール

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音大を卒業後ピアニストとして活動。
日本で活動後北欧スウェーデンへ。
アーティストLindha Kallerdahlと声帯とピアノによる即興哲学を研究。
その後ドイツ・ケルンに渡りAchim Tangと共にアルバム作品制作。
帰国後、金田式DC録音の第一人者:五島昭彦氏のスタジオ「タイムマシンレコード」にアシスタントとして弟子入り。
独立後音楽レーベル「芸術工房Pinocoa(現:Kotaro Studio)」を結成。
タンゴやクラシックなどアコースティック音楽作品を多数プロデュース。
大阪ベンチャー研究会にて『芸術家皆起業論~変化する社会の中、芸術家で在り続けるために』を講演。
その後、秋山庄太郎氏後継の写真スタジオ「村上アーカイブス」でサウンドデザイナー兼音響担当として映像制作チームに参加。
村上宏治氏の元で本格的に写真、映像技術を学ぶ。
祖父母の在宅介護をきっかけにプログラムの世界に興味を持ち、株式会社 ジオセンスの代表取締役社長:小林一英氏よりプログラムを学ぶ。
現在はKotaro Studioにて『あなたのためのアートスタジオ』音と絵をテーマに芸術家として活動中。
2023年より誰かのための癒しの場所『Curanz Sounds』をプロデュース。