握手してもらえないピアニストたち。

生身の手が商売道具のピアニスト。

これはバイオリンなら弓だったり、ドラマーならスティックだったりするわけですが、生身の身体だからこそ怪我には細心の注意を払う必要があります。

弓やスティックのように壊れたから買い換えるとか、それそれ新しいもの。。。というわけにはいきませんからね。

一流の調律師は握手をしない?

さて、ピアニストというとなくてはならない存在なのがピアノ調律師。

基本的には裏方さんと認識されがちな調律師ですが、むしろ一緒に舞台に立つべき存在であると感じる。

ピアノという音の宇宙を丁寧にトレースしていくまさに音の番人であると言えます。

双方に信頼しあってこそ初めてピアノという楽器が音を奏でることができるわけです。

しかし、どんなにいい演奏会に仕上げても、どんなに素晴らしい音を二人で作り上げたとしても、ピアニストは調律師に握手してもらえないんですね。

当然と言えば当然ですが、そこになにやら調律師のプロ意識のようなものを感じます。

今手が汚れているから・・・

筆者が初めて調律師に握手を求めたのが当時初対面だった調律師M氏。

感動的な音の宇宙を作ってくれたので興奮気味に握手を求めてしまいましたが、「今手が汚れてるのでごめんなさい」とかわされました。

その時は握手してもらえない・・・という感覚にはならなかったのを覚えています。

握手は後で。

同じく調律師M氏。

付き合いも長くなりかなり親しくなっていたある日、これまた興奮気味に握手を求めると「後で。」と言われてもちろんそのまま。

ちょっと車に荷物忘れました。

某有名ブランドに所属しつつもフリーでも活躍する調律師H氏。

ある日の収録の際今日はよろしくお願いします。(筆者は演奏者としてではなくプロデューサーとして参加&H氏は筆者がピアニストであると認識。)と握手を求めると。。。

「あっ、ちょっと車に忘れ物したので取ってきます。」と駆け足で。

決して握り返さない。

来日アーティストの多くが名指しで指定するとある巨匠調律師S氏。

まだ調律中のピアノを試奏させてもらった際に、「素晴らしいです。」と握手を求めると・・・

「握手ですか・・・あ〜。。。え〜〜〜。はい。」。

といいつつ、手を出してくれますが、握ることはなく。

その時初めて「調律師の方ってみんな握手嫌いなんですか?」と聞くと、「ピアニストの方と握手することはないですね。」と苦笑されてしまいました。

思えばその巨匠調律師S氏のお弟子さんのS氏も同じように握り返さないという対処法だったのを思い出しました。

お前が嫌われてるんじゃねーの?

もちろんその可能性はありますよね。。。

ただみなさんハグは思いっきりしてくれますので、大丈夫ということにしておきましょう。

音楽作品をプロデュース側で手掛けている時には音楽業界以外の人と接する機会も多く、コミュニケーションの一環として握手で相手にしっかり握力と想いを伝えるというのを意識していました。

相手もそれに対して握力と眼力で返してくれる。

こういう昭和の匂い漂うコミュニケーションが好きな筆者ですが、ピアニストという立場に戻った瞬間に握手してもらえなくなるという肩書きの切り替わりが当時面白かったように思います。

ピアノの音を生み出すためのパーツの一つ

ピアニストの手というのは、F1でいうところのドライバーのようなもの。

すべてを最高にセッティングしたあとに最後の仕上げを託す存在です。

少しサイコパスに見ると、ピアノという宇宙を奏でる最後のパーツです。

その最後のパーツのメンテナンスだけはピアニストに任せる。

調律師のそんな想いが伝わってきそうですね。

これからピアニストを目指す方、調律師に余計な気を使わせてしまうかもしれませんのでどんなに素晴らしい調律をしてくれても決して握手を求めたりしないようにしましょう!

この記事を書いた人

こうたろう

フォトグラファー&サウンドデザイナー
ミュージシャンだった父の音楽スタジオと、モデルだった母の仕事場であるフォトスタジオの現像ルームが子供時代の遊び場という恵まれた環境で育つ。
音楽大学を卒業後ピアニストとして活動。
自身のピアノトリオで活動後北欧スウェーデンにてシンガーアーティストLindha Kallerdahlとセッションを重ね声帯とピアノによる即興哲学を研究。
その後ドイツへ。
ドイツから帰国後ピアノソロ作品アルバムと共に同時リリース。
金田式電流伝送DC録音の第一人者である五島昭彦氏のスタジオ「タイムマシンレコード」にアシスタントとして弟子入りし、サウンドデザイナーとしての活動を開始。
独立後、音楽プロデューサーとして音楽レーベル「芸術工房Pinocoa(現在はKotaro Studioに統合)」を立ち上げ、タンゴやクラシックを中心としたアコースティック音楽作品を多数プロデュース。
現在は元ピアニストの経験を生かしたミュージシャンのライブフォトを得意としながら、肖像写真、動物写真、自然写真を中心にミュージックビデオの制作などオーディオ技術も得意とするフォトグラファーとして活動中。